読み終えた後に残るモヤモヤがなんとも言えない/朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」
あの有名なフジテレビ系列ドラマ「世にも奇妙な物語」への半端ないリスペクトから製作された今作品。
ドラマプロデューサーとの会話を経ての執筆という熱の入れようである。
短い5つの物語で1冊の本が仕上がっているわけだが、これも本家が2時間に5編の物語から構成されている故の構成。
著者によると本家の雰囲気を醸し出すにはまだ足りないと語ってはいるが、本の魅力を、じゅうぶんに活かし、文章という枠の中で見事に「小説版・世にも奇妙な物語」を完成させているようにも見受けられる。
よくある光景、日常にあふれている出来事に、まるで歯車にイタズラな細工でも施してしまったような違和感。
そこから生まれる偶然や寒気は映像では見逃してしまいそうではあるが、本ではより確実に印象に残るため、それぞれのストーリーがもつ不気味さが一層引き立つのだ。
◼️君物語であること
まず、小中学生時によく書かされていた感想文となると、文字数を稼ぐという目的も相成って粗筋を盛り込んでしまう経験は、誰かしら心当たりがあるのではないだろうか。
しかしこの作品に至ってはそれが出来そうにないのである。
すこしでも内容を漏らしてしまっては、魅力が損なわれてしまう懸念がある。
誰かに勧めるとしても、その際箱に入れた後に鍵をかけた状態で引き渡したいのだ。
しかしこれでは私のこの本に対する感情論ばかりで、いったいどのような作風・物語であるのかすらわからないまま終わってしまう。
そこで、あえてピックアップした1つに触れておきたいと思う。
◼️小説版奇妙な物語
まず惹かれるのがこのタイトル。
「シェアハウなさい」
文字数を削っても意味をわからせ、しかもオリジナリティを交えた近代的な言葉に仕上がっている。
さて、この「シェアハウなさい」だが、トラウマを抱えつつ夢に向かって励む女性を描いている。
トラウマを卑屈に捉えず活力に変え、コツコツと目標をクリアしようと努力している姿がまた魅力的だ。
ここまではよくある物語で、これといって「奇妙」要素は見受けられない。
しかしやはり結末がミソなのだ。
このトラウマとリンクした結末は、文字通り誰にも想像できないのではないだろうか。
読み進めていくと、何故だかしきりにこのトラウマに重点を置きたがる節がある。
ここにまず違和感を感じた。
しかし素直にストーリーを追っていた私は、気にもせず登場人物の人柄やミステリアスな部分に惹かれていき、焦点が向いていく。
さらには著者が描き出す特有の青春色に浸っていた。
そこが失態なのである。
平和な物語だと思い込んでしまったのだ。
おかげで最終的な展開に愕然としてしまう。
やはり著者の作り出した「奇妙」な世界は、確実に私を捉えていたのである。
物語自体を語るのは、ここまでが限界だろう。
これ以上は読み手に任せたい。
おそらく私の心情も察していただけるのではないだろうか。
◼️最後に…
難しい言葉は並んでおらず、リアルライフがベースの物語に仕上がっているため、読んでいて疲れるといった事はない。
また、短編集なのでところどころに小休止が出来る。
午後のおやつタイムにちょっとしたスパイスを与えてくれるような作品である。
テンポよくストーリーが進み、ドラマティックに読者を突き落とし、さらなる追い討ちが待ち受けている。
構えていても気づいたら結局コントロールされているのだ。
そんな朝井ワールドに、悔しさを感じつつも惹きつける魅力は、やはり素晴らしいと言わざるおえない。
世にも奇妙な君物語/朝井リョウ著